1. ファシリテーターの素養1:他人の考えに対して好奇心が強い


他人の考えに対して好奇心を持つことが、優秀なファシリテーターの第1条件です。
他人の仕事の出来不出来にしか関心がない人は、良いファシリテーターには絶対になれません。

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結果は見えやすいものであり、考えは見えにくいものです。
見えにくいものを理解しようとする気概、ひいては理解したいと思う好奇心がなければ、会議参加者全員の意見を引き出すことを面倒事と捉えてしまいます。
各参加者の意見を引き出せなければ、全員を目標へのスタートラインに立たせることができず、全員を大きな目標に導くことも動機づけることもできません。


1-1. 参加者の考えを引き出す

参加者の考えを引き出すと言っても、どの程度引き出せば良いのでしょう?

トランプを数人で遊んでいる光景を思い浮かべてください。ゲームはババ抜きとしましょう。
参加者が全員持ち札を隠している状態では、誰がババを持っているのかがわからず、参加者は疑心暗鬼になります。

ババ抜きは勝ち負けを競い、探り合いを楽しむゲームなのでそのままで良いのですが、会議はゲームではありません。
疑心暗鬼になる必要はないのです。
つまり参加者の考えを引き出すということは、全員に持ち札を全て見せてもらうことを指します。


1-2. 心置きなく話せる雰囲気を作る

参加者全員が心置きなく話せるような雰囲気作りも、ファシリテーターの役目として大切です。

気心の知れた間柄ではない者同士が仕事の場で会うとなると、
「この人はなにかよからぬことを考えているのではないだろうか」
「あの人は私を出し抜こうとしているのではないだろうか」
「この人のいい噂はあまり聞かない」
「会社の業績が悪いのはあの人のせいでは」
などと警戒してしまうことがあります。
まさに誰がババを隠し持っているかわからない状態で、協力し合うべき会議でも「弱みを見せてはいけない」と思い、なかなかすぐには打ち解けられません。

しかし多くの場合、トランプが全てテーブルに出された時、ババなど最初から無かったことに気づきます。
ハードネゴシエーターは、悪意があってきつい条件を突き付けてくるわけではなく、守るべき会社や家族のためにただ一生懸命に働いているだけ。
悪い噂はその人の短所の一部分が誇張されて広まっているだけ。
仕事が上手く行かないのには一人の力ではどうしようもない理由や背景があるなど、なにごとも一個人のせいにできることは稀です。
このことから議論は、全員が持ち札を出し切って、敵など最初からいなかったことを確認してからが本番です。

このことをファシリテーターがしっかり理解し、敵味方を判断するためではなく、純粋に議論のスタートラインに全員に立ってもらうために意見を求めていることを態度で示さなければなりません。

そんなことをどうやったら態度で示せるのでしょう?
ファシリテーターが本気で「敵味方なくみんな一緒に目標を達成しよう、そのためにまずはみんながどう考えているのか聞いてみたい」と思っていれば、自然と態度にも表れます。この態度は偽造できません。

だから、そもそも他人の考えに対して強い好奇心を持っていることが、優秀なファシリテーターの第一条件なのです。

2. ファシリテーターの素養2:広範的な組織感覚


ファシリテーターは人を組織の大きな目標に導くために、自身が所属するチームや部署だけではなく、組織全体の観点からものごとを考える能力が必要です。
さらには組織が所属するコミュニティーや、組織に関連する利害関係者までを考慮する広範的な組織感覚を持っていると、ものごとを見る目が自然と客観的になり、なお建設的なファシリテーションが可能です。

ファシリテーター以外の会議参加者が客観性を欠いているということではなく、議論される問題や課題の当事者は立場上、感情的になったり主観的になったりしやすいのです。

会議参加者を大きく分けてA側とB側がいるとして、ファシリテーターが不在の場合はAの利益が大きくなるかBの利益が大きくなるかの陣取り合戦の様相になってしまいがちです。

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そこで、陣取り合戦よりも建設的な話し合いができるようにファシリテーターが介入すべきです。
より建設的な話し合いとは、双方にとって良い未来を目指す話し合いのことを指します。

2-1. 大きな目標を目指すことで目先の問題は小さく感じられる

「双方にとって良い未来」を全員で目指すためには、参加者が目先の利益だけに目を奪われないようにする必要があります。

たとえばインターンシップとは、見方によっては給料の出ないアルバイトのようなものです。
インターンがその日の利益のことだけを考えているとしたら、お金にならないわけですから、やる気が出るはずもなく、すぐに辞めてしまうでしょう。

しかし視野を少し広げると、将来やってみたい仕事や働いてみたい企業を見つけるのを、企業が無償で手伝ってくれるのがインターンシップです。
目先の利益に囚われず、自分の現在の行動や判断が最終目標を目指す過程でなにを意味するのかを考えると、今損をしたとしても、それはごく小さなことに感じられます。

また、企業側は採用に向けて優秀な学生に目星をつけることができ、学生を職場に招き入れることで既存の社員の刺激にもなるという、一挙両得の制度だということにも気づきます。

このように目先の利益からいったん目を背け視野を広げると、敵などいなく、みんなにとって良い未来を目指すべきだと考えることができます。
優秀なファシリテーターは、参加者全員に「双方にとって良い未来」、もしくは最終目標である「組織にとって良い未来」をゴールとして指し示します。

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2-2. より広い土俵へ導き、組織全体にとって良い未来を目指す

考えるべき方向性を指し示したら、ファシリテーターはAB両者をお互いの損得を超越した議論、つまりより広い土俵で議論するよう働きかけます。

◆広い土俵での議論の例

たとえば路線の直通運転を行っている地下鉄運営会社2社が、以下の外国人観光客からの苦情について悩まされているとします:

■「電車内の路線図には一方の運営会社管轄の駅しか記載されていなくて非常にわかりづらい」
■「駅構内も、電車案内のデザインが統一されていなくてわかりづらい」
■「同じ電車なのにここからここまでがA線、ここからここまでがB線と言われてもよくわからない」

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これらの苦情を受けて、直通運転の路線は全てひとつの名称に統一するのはどうか、という議論を両者で行っているとします。
これをA社とB社の間だけの話にしてしまうと、どちらが得をし、どちらが損をするのかという議論になってしまいがちです。
しかし、もしファシリテーターが介入して議論の参加者をより広い土俵に目を向けるよう働きかければ、ここでの決断が社会でなにを意味するのかを考える議論になっていきます。

ファシリテーターがいない場合に飛び交う意見と、いる場合に飛び交う意見の例を見てみましょう。


ファシリテーター不在の中、お互いの損得に関して議論している場合に飛び交う意見

■長年かけて築き上げてきた路線のブランドを手放すことになるので、名称やデザインはそう簡単には変えられない。
■どちらがどのくらいの割合で資金を出すのか。どちらの会社が主導権を握るのか
■もしそちら側の運転士や乗務員がなにか失態を起こしたら、お客様の目からは我々にも非があるように映る。


ファシリテーターがいて、より広い土俵で議論している場合に飛び交う意見

■これまで各社は外国人観光客にもわかりやすいよう、車内案内も駅構内の案内も独自に工夫してきた。しかし観光客にとっては、運営会社もなにもなく、みんな同じ「電車」だ。スムーズでわかりやすい移動手段を両社が協力して提供できれば、観光客の目に映る日本の良さを最大化できるのでは。
■名称を統一するとしたら、これを機に両社の運転士や乗務員で合同訓練や意見交換会をもっと頻繁にすべきです。なにかあった時に対応がまちまちではお客様が不安になるかもしれない。また、お互いからさらに学ぶことができる。
■より多くの観光客をもてなすという国としての施策に合致することなので、直通運転路線の統合は是非やるべき。会社としても社会貢献の1つの形になるだろう。ただ独占禁止法に引っ掛かるなどの問題がないかだけ法務部や行政と確認するべき。


これで全員一丸となって「双方にとって良い未来」や「組織にとって良い未来」という大きな目標を見据えることができます。
AとBという2極だった構図が、目標が共通の1つのチームになります。

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会議室の中にいる参加者だけを見るのではなく、会議室にいない利害関係者も考慮するような広範的な組織感覚は優秀なファシリテーターに必須の素養になります。

3. ファシリテーターの素養3:動機付けが上手い


ファシリテーターは参加者全員を最終的に大きな目標へ導き、高いモチベーションを持って目標達成を目指してもらうのがゴールです。
そのためには、参加者にものごとを前向きに見るよう働きかける必要があります。
そのやり方の1つが、「リフレーミング」です。


3-1. ファシリテーターのテクニック:リフレーミング

リフレーミングとは、マイナスに聞こえるメッセージをプラスに聞こえるように言い換えることを指します。

一番有名な例として、以下の文があります:

The glass is half empty このコップは半分空だ
The glass is half full このコップは半分満たされている

どちらも本当のことなので、どちらも正解です。しかし、同じ正解なら楽観的に考える方がいいじゃないか、という考え方です。
会議参加者の目標への動機付けのために、また単純に議論を前進させるためにファシリテーターが用いるテクニックとして有効です。

たとえば悲観的な内容の会話例と、同じ内容の会話にファシリテーターがリフレーミングをすることで楽観的に考えるよう促す、という会話例を見比べてみましょう。


会話例 a-1.
Aさん:「この施策案は非常に的を射ているね。」
Bさん:「ただ結果が出るのに10年と、あまりにも時間がかかりすぎますよ。」


会話例 a-2.
Aさん:「この施策案は非常に的を射ているね。」
Bさん:「ただ結果が出るのに10年と、あまりにも時間がかかりすぎますよ。」
ファシリテーター:「時間がかかるからこそ、今始めるべきではないでしょうか。きっと競合他社は時間の問題で同じようにためらっていると思います。」


会話例b-1.
Aさん:「優秀な人材はなかなかいませんね。」
Bさん:「これだけ長く募集をかけても一向に見つかりませんね。」


会話例 b-2.
Aさん:「優秀な人材はなかなかいませんね。」
Bさん:「これだけ長く募集をかけても一向に見つかりませんね。」
ファシリテーター:「つまり優秀な人材を1人でも見つけ、確保するということは、この業界で大きなアドバンテージを得ることになりますね。がんばりましょう。」


このように、現状や会議参加者の発言をポジティブに言い換えることで、目標への推進力を保ったまま会議を進行できます。


3-2. リフレーミング練習問題

リフレーミングは有用なテクニックというだけではなく、他者を巻き込み引っ張っていくリーダーには欠かせない考え方(マインドセット)でもあります。
普段から仕事中に実践してみると良いでしょう。

以下に悲観的な発言をリフレーミングする練習のための問題集を用意しました。
会議参加者の発言から現状を察し、ポジティブに言い換えてみましょう。
リフレーミングの例もその後に記載しました。


会議参加者の発言

  1. 「絶対に売れると思ったのに、この商品全然売れないね。」
  2. 「雇っているそばからどんどん人が辞めていきますね。」
  3. 「カンボジア市場に進出したいけど、リスクが大きい気がするな。」
  4. 「あの外注先は、時間は守るけど仕事の質がいまいちだね。」
  5. 「上司と考え方が違うんだよね。」



リフレーミング例

  1. ということはこの商品に少なくとも今はまだ需要がないということで、自分たちからもっと良さをアピールしていかないとだめなんじゃないかな。それがわかっただけでもこの商品は作った甲斐があったと思うよ。
  2. この業界だと人の入れ替わりが激しくて当然だよ。採用はちゃんとできているんだから、あとは従業員を引き留めるのに集中すればいいだけだよね。
  3. じゃあ次にすることはもう決まっているね。そのリスクをどうやったら最小化できるか考えよう。
  4. 期限厳守の意識は高い会社だから、私たちの方から質の向上に取り組むように働きかけてみよう。
  5. じゃあその人と合意形成が取れたとしたらそれはすごいことだよね。一皮向けたってことになるんじゃないかな。


良いリフレーミングのポイントは、会議中に難題に差し掛かっても、参加者が話を前へ進められるようなきっかけを作ってあげられることです。

4. ファシリテーターの会議での立ち回りがわかるシチュエーション

ここまではファシリテーターの素養から会議で使うテクニックまでを見てきました。
最後に、優秀なファシリテーターが会議で実際にどのように立ち回るかを、会議のシチュエーションを通して理解を深めましょう。
ファシリテーターのFさんが、一見些細な議題を、いかに組織の大きな目標に結び付け、さらに会議参加者がその目標を目指せるよう動機付けるかを見ていきましょう。


4-1. ファシリテーションを要する会議の背景

PP Pudding社という、アメリカはノースカロライナ州発のプリンの製造・販売業者があるとしましょう。
独自の製法で、シンプルながらクセになるような味が消費者に受け入れられ、安価で大衆的なおいしいオヤツとしてアメリカ全土で人気です。

また、利益の一部を使って参加無料の家族向けイベントを店舗の地元で定期的に行う地域密着型の企業という一面も持ちます。
特に娯楽施設へのアクセスが限られている地方では、「映画や買い物以外の家族向けの娯楽を提供してくれて助かる」「PP Puddingのイベントなら安心して子どもを行かせられる」と地元の人々に親しまれています。

日本にもフランチャイズ店が数点オープンしています。
日本にはこれまでなかった味のプリンとして、希少価値から高値で販売され、日本国内においてはブランドプリンという位置付けです。

日本でのフランチャイズ契約を結んでいる大手菓子メーカーの子会社、PP Pudding Japan社の活動は精力的で、店舗販売のみならず、私立小学校などの学校法人への販売も行っています。
「給食でPP Puddingのプリンが出る学校」として在学生の満足度を上げる形で、学校法人に貢献しています。


4-2. トラブル発生

取引する学校法人が7社を超える頃、PP Pudding Japanの営業担当者数名から次のような報告が月2件ほどのペースで上がってきます。

■「プリンの容器を開ける際に、児童が手を切った」
■「プリンの容器を児童が勢いよく開けようとして、指を切った」

同主旨の報告が多いので容器を調べてみると、確かに、破損した状態だと皮膚を傷つける可能性があることが見受けられます。
アメリカのPP Pudding本社に問い合わせてみると、プリンのみならず、容器も1950年の創業当時から同じ作りのものが製造されていることがわかります。
当時は頑丈で安価、かつ安全な素材の選択肢は今ほど多くなかったのだろうと推測されます。

このまま看過していると、「子供に与えるのは危険」という悪い噂が広まり、売上に影響が出かねないと、PP Pudding Japanは危機感を感じ始めます。


4-3. PP Pudding本社との会議

この容器の安全性に関する問題はフランチャイザーであるPP Pudding本社に報告され、対策を考えるための会議が設定されます。
会議参加者は以下の通りです。

PP Pudding本社からは
■経営企画部から1名
■商品開発部から2名

PP Pudding Japanからは
■営業部から1名
■経営企画部から1名

また、これまでPP Pudding Japanと連絡を頻繁に取り合っていた広報部のFさんが会議に参加することになります。
Fさんは以前日本で働いていた経験もあり、個人的に本件に関心があります。
Fさんは計6人のミーティングのファシリテーターの役割を買って出ます。

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4-4. 会議開始当初の各参加者の意見

会議が始まり状況確認が済んだところで、Fさんは各参加者の本件に対する意見を共有することを提案します。

PP Pudding Japan 営業部
■クライアントである学校法人には迷惑をかけたくない。一刻も早く容器をもっと安全な素材で作りなおしてほしい。


PP Pudding Japan 経営企画部
■せっかく軌道にのってきた学校法人への営業が、今後し辛くなってしまう。
■全世界のPP Pudding製品の容器を作り替えるのが難しいなら、日本国内だけでも容器の代替を許可してほしい。


PP Pudding本社 商品開発部
■PP Puddingの製品は、現行の容器を含めてアメリカ人が慣れ親しんできたもの。容器の素材を替えるだけでも影響の程度が心配。
■作り替えるにしても今は人員不足だし、素材の選定や試験にも時間がかかる。そもそも優先順位が高い事案なのだろうか?


PP Pudding本社 経営企画部
■容器を作り替える案に、経理部はあまり良い顔をしないだろう。コストを最小限に抑えるために、容器を開ける際の注意書きを添える等の対応はどうか。
■他の国からも同様の苦情は出ているが、年に7、8件程度。謝罪文と共に粗品を送るのが通例。今回も同じ対応をしてはどうか。


現時点では参加者の意見はこのように分かれています。

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4-5. ファシリテーターFさんの頭の中

各参加者の意見が出揃ったところで、Fさんは頭の中で状況を整理します。

■PP Pudding Japanはこの事案を大変懸念している。自分の日本での職務経験上、日本では風評がビジネスにもたらす影響は大きい。おそらくそれを恐れての今回の申し出だろう。
■本社側は今回の事案の優先順位を低く見積もっている。確かに日本のフランチャイズ規模はまだ小さい。容器を作り替えるコストと日本からこの先見込めるフランチャイズ・ロイヤリティーを秤にかけている。

つまりどちらの意見も一理あるので、「容器を作り替えるか否か」はどちらも正しい、とFさんは考えます。
同時に、論点を「損得勘定」のまま話し続けても、きっとどちらかが納得の行かない結論に達し、関係が悪化した状態で会議は終わるだろう、と考えます。

そこでFさんはより広い土俵に議論を持ち出すことにします。


4-6. 会議室にいない利害関係者を洗い出す

会議の現時点ではプリンの容器という一見些細なことを議論しているようですが、実は会議室にいない利害関係者が大勢いることにFさんは気づいています。
本社側が知っていてJapan側が知らない利害関係者もいれば、逆も然りです。
ファシリテーターとして、相手が知らないことをお互いに共有させるのが次のステップです。

「容器を作り替えるかどうかについて、私たち以外にどのような人々がどのような意見を持つか考えてみませんか?」
とFさんは切り出します。

Fさん:「ではJapanの営業部はどのような利害関係者がいるとお思いですか?」

「もちろん第一にお客様である学校法人でしょう。大半が小学校です。『怪我をする危険性があるプリンを給食で出す学校』とは思われたくないでしょうし、なにより学生を危険にさらしたくないでしょう。」

Fさん:「なるほど。他にはいませんか?」

「小学校ですから、通っている小学生が実際に手を切ってしまうかもしれません。彼らも利害関係者です。それに親も自分の子供が手を切ったら心配だし、嫌でしょうね。」

Fさん:「学校に、学生に、その親ですね。」
Fさん
:「ではJapanの経営企画部はどのような利害関係者がいるとお思いですか?」

「学校、学生、親はもちろん、法人顧客でない、子供を持つ一般消費者にも少し影響するのではないでしょうか。もし今後同じ事案が発生し続けてニュースで取り上げられてしまったら、親によっては子供のオヤツの選択肢からPP Puddingを外すかもしれません。」

Fさん:「つまり日本の家族コミュニティーも、大きい意味で利害関係者ですね。」
Fさん
:「では商品開発部はいかがお考えですか?」

「60年以上も同じ容器なわけですから、容器を作り替えたら昔からの愛好家は少し残念に思うのではないでしょうか。昔ながらの味とデザインが今まで好評なわけですから、作り替えるとしたら、きちんとした理由があることを説明しないと『元のデザインに戻してほしい』という苦情が来るのではないでしょうか。」

Fさん
:「既存顧客も利害関係者ですね。」
Fさん
:「経営企画部はいかがお考えですか?私としてはもう『2人』利害関係者がいる気がします。」

「我が社は『古き良き』というイメージが強い他、『地域密着型企業』としてこれまで成長してきました。安心して子供を行かせられるプリン屋さんが、怪我の恐れのあるプリンを販売しているなんて、会社の理念に反するかもしれません。理念に共感して入社した自社社員も利害関係者です。」

Fさん:「『2人』の利害関係者は会社の理念と、自社社員ですね。もちろん企業の利益も忘れてはいけません。」


4-7. 利害関係者を考慮した話し合いに発展させる

自分を含め、参加者全員がこの話し合いの本当の意義を理解できるように、Fさんはこれまでの話をまとめます。

Fさん:「私たちが考える利害関係者は学校、学生、学生の親、日本の家族コミュニティー、既存顧客に会社の理念、社員、そして利益、ですね。つまり容器を作り替えると、これらの人々にはどのようなメッセージとして捉えられるでしょうか?」

「容器を作り替えると、ですか。公へのコミュニケーションの取り方次第ですが、PP Puddingは子供たちがおいしいオヤツを安全に食べられることに重きを置く会社だというメッセージにはならないでしょうか。」
「メッセージとしてだけではなくて、創業者や、会社の理念を理解している社員は本当にそう思っているでしょう。」
「容器をひそかに作り替えるのではなく、ちゃんと今回の事案の説明と共に、なぜ作り替えるのかの説明を公にすることで我々が誠実な企業であることを示すのはどうでしょう。」

Fさん:「では容器を作り替えることにどのようなデメリットがありますか?」

「コストも時間もかかりますね。度合いによって役員会議で合意を得るのは骨が折れるかもしれないですね。」
「やるにしてもすぐには無理でしょう。制作に最低3カ月は要すると思います。」

Fさん:「なるほど、では容器を作り替えない場合はどのようなメッセージとして捉えられるでしょう?」

「短期的には企業イメージや利益に損害はないと思います。しかしこの事態を今知ってしまったので、もし後でさらに児童の怪我が相次いでニュースにでもなったとしたら、事実を隠ぺいしていたことになります。」
「すると不誠実な会社のレッテルを貼られて、社内外からのイメージは非常に悪くなりますね。」
「もちろん容器を作り替えない代わりに、『取り扱いにお気を付け下さい』と伝えるために各学校法人を回ることはできますが、結局、怪我の危険性を知った上でプリンを給食に出し続けてもらうということは学校法人に、学生や親に対して不誠実な対応をお願いすることになります。」

Fさん
:「作り替えない場合は『不誠実な企業』というメッセージになりかねないということと、デメリットは自社と法人顧客に『不誠実』な仕事をさせることになる、ということですね。では逆に容器を作り替えないメリットとはなんでしょう?」

「それはもちろんコストをかけなくていいことです。あと、開発部は人員が足りていないそうですし、急に仕事が増えたら不満に思うことでしょう。それが避けられることがメリットではないでしょうか。」
「それとプリンのファンが昔ながらの容器を引き続き楽しめるということですね。」

Fさんのファシリテーションの助けもあり、議論は以下の図のようにより広い視野で行われます。

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4-8. 利害関係者を把握した後で各参加者の意見を再び問う

選択肢が与えるメッセージとメリット、デメリットを整理したところで、再びFさんは参加者に問いかけます。

Fさん:「どうやら容器を作り替える選択肢には、公にきちんと説明することを条件に、この先法人顧客や消費者、自社従業員との関係を良好に保つという意義があるようです。また、短期的な利益を損じるというリスクがあります。
容器を作り替えない選択肢には短期的な利益を守るという意義があるようです。また、長期的な利害関係者との関係悪化というリスクを抱えることになります。
どうするべきか決めるために、多数決を取るのはいかがでしょう。その後に具体的なアクションプランを立てましょう。」

多数決を取った結果、以下のように作り替える案への賛成派が過半数になります。

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4-9. アクションプランを立てる

多数決の結果、開発部の1人だけが容器の作り替えに反対します。
Fさんはこれまで保っていた中立的立場をあくまで変えず、少数派である反対意見を尊重します。

Fさん:「実際に容器を作り替えるとしても、それをやるのは開発部です。不本意のまま仕事をしてもらうわけにはいきません。多数決で結果は出ましたが、開発部が反対の理由を聞くべきです。どうお考えですか?」

「容器をそのままにしておくことが長期的にリスクを抱えることだということはわかります。ですが開発部には今本当に余裕がないのです。人員確保ができなければなにもできません。」

この意見を受けて、Fさんはリフレーミングのテクニックを用いて議論を前進させます。

Fさん:「なるほど。では人員確保ができれば容器を作り替えるのは構わない、とお考えですか?」

「そうですね。現状では不可能というだけです。」

Fさん:「現実的に考えて、容器を作り替えるのには時間が必要なようです。Japanのみなさんは出来上がりまで待てますか?また、待つ間はどういったアクションを取るべきでしょう。」

「まずは今回、容器を作り替えることになった経緯を、広報を通して正直に話すべきでしょう。新容器での提供の時期に目処を立てた上でそれを伝え、それまでは店舗や法人顧客にて怪我の危険性の周知に注力します。」
「売上はしばらく下がるでしょうね。」

Fさん:「本社は、全世界に同じく説明するべきだと思いますか?」

「難しい質問ですね。日本向けにだけ容器を作り替えるのもおかしな話なので、全世界に提供している全商品の容器を対象にするべきでしょう。つまり説明も全世界にしなければなりません。かなりおおごとになりますね。」


4-10. リフレーミングでマイナスな考えを逆転させる

Fさんは参加者にまだわずかにためらいがあることを感じて、今回の問題の捉え方を、参加者がリフレーミングするよう促します。

Fさん:「しかし逆にチャンスでもあるのではないでしょうか?」

「そうですね。うまくやれば、商品のデザインの長い歴史よりも、子供たちの安全を優先する会社としてのPRにもなりますね。」
「幸いなことに、創業当時と違って我が社は資金が潤沢にあります。今はコストをかけられる状況ですから、時間はかかっても作り替えと説明の両方をやるべきではないでしょうか。」
「たしかに。社長もきちんと説明すれば予算をくれると思います。」

Fさん:「開発部はそれで構いませんか?」

「ええ。人員確保と開発の時間がいただければこちらは問題ありません。といっても早い方がいいので、私から人事部に採用を催促しておきます。」
「助かります。公への伝え方は慎重にしなければならないので、この話はいったん持ち帰らせてください。本社でコンサルティング会社に事態の説明の仕方について相談します。しかし今月中には必ずプレスリリースを出しましょう。Fさん、お手数おかけしますがそちらの手配をお願いします。」

Fさん:「お安いご用です。」

「ありがとうございます。日本では日本語に翻訳する必要があるので、なるべく早めにプレスリリースができると助かります。」
「わかりました。他の国にも同じ対応をしましょう。」
「日本の学校法人には帰ったらすぐに口頭で今回の決定をお伝えします。そして今月末にプレスリリースがあることも。もちろん新容器が出来るまでは、プリンを開ける時は保護者や先生に気をつけていただくようにもお伝えします。」

Fさん:「どうやら考えがまとまったようですね。このあと今回の要点をまとめて、みなさんにメールします。素早く行動すればピンチをチャンスに変えられる事案です。がんばりましょう。」

 

* * *

いかがでしたか?

問題の当事者たちが直接議論すると、意見が個人的な攻撃に捉えられたり、素直に意見を言えなかったりします。
そこにファシリテーターが介入することで、必要に応じて第三者を介しての話し合いが可能になります。
さらに上手いファシリテーションの力があれば、議論を円滑に前進させることができます。

多くの多様な組織が絡み合う現代ビジネスシーンでは、ファシリテーターになり得る人材の重要性がさらに増していくことでしょう。
社内で優秀なファシリテーターの定義に該当する人材がいないか、意識してみてはいかがでしょうか。

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