1. 良質なフィードバックステップ①:土台作り


新しく着任したマネージャーは社員にとっては「得体の知れない」「なにを考えているのかわからない」存在です。
また、意見が対立したり、今までのやり方を否定したりするマネージャーは「敵対する」「倒すべき」存在と捉えられている可能性があります。
すると成果評価においてはメンターもメンティーも、両者が緊張して、守りの姿勢のまま会議室に入りフィードバックセッションを始めてしまいます。

もちろんフィードバックセッションの限られた時間内でもこの緊張を解くことはできますが、会議室に入る前から雰囲気が良好であるに越したことはありませんよね。
まずは建設的なフィードバックを行うための土台作りから考えていきましょう。


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1-1. メンティーとの間に信頼関係を構築しておく

マネージャーとして、部下の信頼を獲得するにはいくつか方法があります。たとえば:

■密にコミュニケーションを取り、考えを周知することで透明性を示す。
■仕事量や仕事の難易度について困っている部下を実質的に助けることで手本を示す。

しかしこれらのことを、「マニュアルに書いてあるから」という動機から行ったとしても、その行動にきちんとした考えが伴っていないことを部下はすぐに見透かすでしょう。
逆に「このマネージャーは私たちを型にはめようとしているな」と感じ、不信感を生みかねません。

家族にたとえると、「親だから」という義務感から親が子を守るのではなく、「子を愛しているから」という価値観から親が子を守ることの違いです。

仕事場での行動の判断は、組織の価値観を基にします。


1-1-1. 組織の価値観を理解し、判断の軸にする

部下や後輩にフィードバックを与える際に、メンターが気をつけなくてはいけないことが1つあります。
メンティーの仕事や行動の善し悪しを、メンター自らの仕事観を基に判断してはならないのです。
フィードバックを与える側は、勤めている組織の価値観を基に判断をしなければなりません。

これには2つの理由があります:


1. メンターの仕事観を基に日頃の善悪の判断を行ってしまうと、メンティーはメンター1人の好みに合わせるために仕事をすることになってしまい、途端に仕事をする意義が薄れてしまいます。このことに気付いたメンティーは、当然のことながらモチベーションを失ってしまいます。


2. メンターの仕事観が、メンティーが同調できないものだったとしたら、両者の関係が「メンター対メンティー」という構図になってしまいます。この関係のままフィードバックセッションに入ってしまうと、もはやフィードバックを与えるどころではなく、どちらが相手を言い負かすか、という会になってしまいます。


これらのことから日頃必ず、目には見えない「組織」という第三者を思い浮かべ、「組織の価値観」を判断の軸にします。
つまりメンターは組織の代表者になり、同時にメンティーが組織の価値観を理解できるようサポートをする協力者にもなります。
すると、たとえメンティーがメンターの判断に同調できなかったとしても、「メンティー&メンター対組織」という構図になり、建設的なフィードバックセッションができるようになります。

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1-1-2. 組織の価値観を判断軸にした言動の例

2つの構図の違いを明確にするために、例を挙げます。

ある国際コンサルティング企業の価値観の中に、以下の4つが含まれているとしましょう:

  1. 長期的人材育成
  2. グローバルな社内ネットワークの活用
  3. 多様性の尊重
  4. 協力しあう姿勢

また、以上のことから、この企業は下請け業者を一切使わず、必ず社内の人材のみで業務を完結するというポリシーがあるとします。

同社に中途採用で入社した新米プロジェクトマネージャーのBさん(メンティー)と、その上司のAさん(メンター)の関係が、Aさんの判断軸の所在によっていかに変わってくるのかを見ていきましょう。


Bさんの過ち

Bさんは、クライアントの新社内ITシステム構築というプロジェクトを受け持っています。

困ったことにシステム開発のプランを立てている途中、チーム内の人材ではどうしても技術的に困難な工程が明らかになります。
そこでBさんはインターネットで下請け業者を探し、見込みのありそうな会社を数社選定します。
入社してから一度も仕事が下請けに出されるところを目撃したことがなかったものの、納期のことを考えるとこれから手探りでプロジェクトを進めるより、ノウハウを持った他企業に任せる方が合理的だと判断しました。

後日、ミーティングにてBさんは上司のAさんに外部委託を提案します。Aさんは「下請けに任せるのはよろしくない」と判断し、Bさんにそう伝えます。
しかしこの後、Aさんの判断軸の違いによって両者の関係には2つの未来が待っています。


未来1:上司であるAさんが自身の仕事観を判断軸に「ノー」と言った場合

Aさんが長年同社で勤めてきた経験上、下請けには頼らずにクライアントの要望に100%応えることにプライドを持っているとします。
企業の価値観に沿ってはいますが、もし「外部委託するのはカッコ悪いから」という理由でBさんの提案に「ノー」を突き付けた場合、Bさんは以下のことを思うでしょう:

■納期を守らなければならない。カッコ悪いなどと言っている場合ではない。
■業務委託をしようとする自分の仕事はカッコ悪いのか。

直接的ではないにせよ、自分の仕事の仕方を「カッコ悪い」と言われて気持ちいい人はいません。関係は言うまでもなく悪化するでしょう。


未来2: Aさんが組織の価値観を判断軸に「ノー」と言った場合

Aさんが外部委託をせずにクライアントを満足させる仕事の仕方にプライドを感じているとしても、Aさんはそれを理由にBさんの提案を却下しません。
「ノー」と言うのにはきちんとした組織としての理由があることを、次のように説明するでしょう:

■うちは外部委託を基本的にはしない。取り扱ったことがない案件は、我が社の社員が学ぶ絶好の機会だからだ。
■外部委託を考える前に、社内の人材を検討するべきだ。社内と言うのは、世界各国の他支社も含む。
■グローバルな社内人材ネットワークが我が社の強みだ。それを活用して、協力して課題に挑み解決するのがうちと他社の違いだ。
■人事部に相談すれば、対応できそうな人材をグローバル規模ですぐに探してくれる。相談してみては。

こう説明することで、Bさんは自社において外部委託しないことがなぜ良しとされているのかが客観的に理解できます。


このように個人の価値観を意思決定に介入させないことで、Aさんは企業の価値観をしっかり理解している「相談相手」という印象をBさんに与えます。以後フィードバックセッションは、BさんがAさんに二人きりで相談ができる貴重な場になります。


1-2. 結果ではなく努力に対して評価する

結果ではなく、努力という結果までの工程を褒めることでも良好な上下関係を築くことができます。

ここで言う「努力」は、残業時間の長さなど、体力的ながんばりを指しません。
今までとは違った仕事のやり方や取り組みのような「挑戦」を指します。
挑戦をすることで失敗を味わい、失敗から立て直し、成功を収めることで自信が身につきます。
この繰り返しを通してビジネスパーソンとしても、人間としても成長していきます。

いつも通りのやり方で結果を出して褒められると、メンティーは「自分はこのままでいいんだ」と思ってしまうかもしれません。
同じやり方でももっと効率よくやったり、新しい要素を加えたりして実験する習慣をつけられれば、メンティーは放っておいても成長し続ける優秀な人材になります。
このことから、以下のことを日頃心がける必要があります:

■挑戦する努力は褒める
■挑戦せずに得た結果は褒めない
■挑戦して得た結果はうんと褒める

すると、フィードバックセッション中にメンティーがメンターに新たな課題を提示されても、それは面倒事ではなく挑戦であると前向きに受け取ります。


1-3. 「人」単位ではなく、「言動」単位で評価・批判する

たとえどんなに仕事が上手くできない部下でも、本人の人格を批判してはいけません。
人が仕事で見せる人格はいくつもある内の1つでしかなく、仕事上の言動からその人の全てを決めつけることはできません。人は時と場合によって別人なのです。
そこで「人」単位ではなく、その人の「行動」単位で評価や批判をするよう心がけると、公正なメンターになれます。

仕事中の言動=その人の人格ではない

たとえばマネージャーが「君はお客様にあんな口の利き方をして、なぜお客様が気分を悪くするだろうと想像できないんだ?思いやりがなさすぎる。」と部下を批判したとしましょう。
この批判は理不尽なものとして捉えられる可能性があります。
接客中はたしかにお客様の目線に立って考えることをしていないのかもしれません。
しかしもしかしたら、部下は家では家族のことを第一に考える、大変思いやりのある人かもしれません。

逆も然りです。
マネージャーが仕事中どんなに気持ちの良い接客ができたとしても、もしかしたら家に帰れば疲れ切ってしまい、家族に対してつい言葉遣いが荒くなったり、思いやりに欠けた言動をしているかもしれません。

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言動にフォーカスする

仕事中の至らない言動からその人の人格のことを一概に言えないとしても、至らない言動が仕事上不都合であることは確かです。
そこであくまで言動にフォーカスして評価・批判をします。

たとえば、言動にフォーカスした批判は以下のようになります:

「さっきの言葉遣いはまずかった。いくら歳が近くて気が合うからって、お客様にタメ口を利いてはいけない。なぜいけないかわかるかな?」
「お客様から質問が多くてなかなか話を切り上げられなかった時に、少しイラッとした口調だったね。実際に通常より1時間も多く話してたわけだから気持ちはわかるけど、これからイラッとしないにはどうしたらいいと思う?」

言動に焦点を合わせることでメンターとメンティーの両者が自然と客観的に考えられるようになります。
「メンティー&メンター対課題」の構図が作りやすくなり、建設的なフィードバックセッションができるようになります。
以上のことができていれば、良質なフィードバックを与えるための土台は十分にできあがっています。

心構えが出来たところで、いよいよ良質なフィードバックセッションの中身を見ていきましょう。

2. 良質なフィードバックステップ②:課題の共有


ここからはフィードバックセッション中の状況を想像してください。

メンティーが抱える問題が解決すべき課題であるとメンターが一方的に思っているだけでは、話が前に進まないことがあります。
メンティーの考え方によっては問題=課題とは限らないからです。

広いインドの中には「世の中、問題があって当たり前。完璧なんてない。」と寛容に考える文化があったり、同じ日本人でも問題の優先順位は人によって違ったりします。
課題に取り組むにあたって同じスタートラインに立つためには、メンターとメンティーの両者が問題を課題と認識する必要があります。


2-1. 課題解決の動機付けをする

メンティーに問題が課題だと認識してもらうにはどうすれば良いのでしょう?
方法の1つとして、問題を解決することでメンティーにどのようなメリットがあるのかを教え、動機付けをすると良いでしょう。

たとえば今回は以下のようなメンティーにフィードバックを与えるとしましょう:

■仕事は速く、仕事の質も高い
■部内で一番意識が高く、自分にも他人にも厳しい
■ただ、作る資料の情報量が多かったり、複雑だったりするため、読み手への配慮が足りない
■このため、プロジェクトメンバーが資料をしっかり読んでいないことが後になって発覚したり、他部署から問い合わせの電話が頻繁に来たりする

このメンティーをBさんとして、メンターをAさんとしましょう。

Bさんが取り組むべき課題は、書面でのコミュニケーションです。
仕事は速いのに、情報整理とコミュニケーションが不十分なため周りへの情報共有が上手くいかず、結果的に非効率が生まれるという残念な状況だからです。

Bさんに課題解決に取り組む動機付けをするために、Bさん特有のモチベーションの元はなんであるかを考えなければなりません。
Bさんの意識が高い点に注目してみましょう。
わかりやすいコミュニケーションは上を目指す者には必要不可欠なスキルだ、という切り口が効くかもしれません。

例としてAさんはBさんにこのように問いかけるべきです:

「Bさんは資料をすごいスピードで作ってくれるけど、情報量が多くてなかなか読む時間がないんだよね、という意見をよく聞くんだけど、どう思う?」
「資料を読むよりも作る方が労力がかかるのは確かだ。でも読み手の都合を忘れて読みやすさを求めないとどうなると思う?」
「Bさんがもしこの会社の社長になったら、直接触れ合うことができない社員の方が多くなるよね。社長はどうやって社員全員とコミュニケーションを取ると思う?」
「メールや内部文書が主な媒体になるよね。じゃあもし、社長からの内部文書が、社員が進んで読みたくなるような書き方がされているとしたら、どう思う?」
「大きな組織を率いるには、会わずして社員のモチベーションを上げる能力も大事だよね。Bさんの次のステップは、そこじゃないかな?」

ここではAさんは、今回の課題をBさんの将来的な目標の通過点に位置づけることで動機付けをしています。


2-2. メンティーが課題を自らの言葉で言う

最後の問いにBさんが納得した時点で、課題を両者が認識したことになります。
課題がBさんの腑に落ちたか確認するために、本人が課題を言語化する必要があります。
ここで言う「言語化」とは、フィードバックセッション内で同意した考えをオウム返しするのではなく、自分の考えとして吸収し自分の言葉で表現することを指します。
こうすることで課題の理解度が確かめられますし、Bさんの意志を強める効果もあります。

3. 良質なフィードバックステップ③: アクションプランを立てる


課題を解決することに同意ができたら、今度はアクションプランを立てます。
ここでメンターが注意すべきことは、メンターの最適解は、メンティーの最適解とは限らない、ということです。

たとえばメンターのAさんがBさんと同じぐらいの歳の頃、同じ課題に悩まされていたとしましょう。
当時は資料作りの講座に通ったり、上司をお手本にしたりして上達していきました。
しかしここでBさんに「ABC社の講座に行くといい」「(上司である)私をお手本にするといい」などと、自分と同じ方法論を押し付けてはいけません。
ABC社がAさんにとって良い学び舎になったのは、Aさんが自分で探して、自分で行くと決めたからです。
上司がAさんにとって良いお手本になったのは、Aさんが自ら手本となる人を見つけたからです。


3-1. 解決策の枠組みを伝え、中身はメンティーに任せる

解決策を決めていく上で、メンターがアドバイスをあまり具体的にしてしまうと、以下の問題点が挙がります:

■メンティーが自ら解決策を考えることで課題に取り組むモチベーションを上げる機会を、逃してしまいます。
■メンティーがもしアドバイス通りに課題に取り組んで上手く行かなかったら、他人(メンター)のせいにできてしまいます。

そこで方向性を指し示す解決策の枠組みだけを伝え、具体的な中身はメンティーに考えさせると良いでしょう。

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たとえばAさんは以下のようにBさんに問います:

「わかりやすい資料作りを学ぶにはどうすればいいと思う?」
「周りにわかりやすい資料を作る人はいる?」
「資料の理想の形はどんなだと思う?」

これらに対し、Bさんはこう答えるかもしれません:

「通勤中に電車広告で社内コミュニケーションに関するセミナーの宣伝をしていました。まずはそれに行ってみようと思います。」
「Cさんの資料はいつも簡潔ですし、しかもメールに添付資料の概要も丁寧に書いてあって助かります。これをお手本にしようと思います。」
「渡された資料を読むことにどういう利点があるのかがはっきり分かるといいですね。この点を資料の一番初めに書くようにします。」

このように、メンティーに具体的なアクションプランを言わせることにより、本人は納得して取り組めますし、メンターにも思いもよらない発見があるかもしれません。


3-2. アクションプランに期限を設け、成果を測定可能にする

せっかく立てたアクションプランも、達成感を感じることができなければ次第にモチベーションが下がってしまいます。
このため、達成するまでの期限と、達成度を測定できるような仕組みを考える必要があります。
今回のBさんの件を例に取ると、 次のようなルールを設定すると良いでしょう:

■1ヶ月後のチーム会議を第1回目の期限とし、さらに1ヶ月後にあるチーム会議を第2回目の期限とする。
■先日作成した資料を、講座へ行ったりお手本を真似たりするなどして学んだ新しい方式で作り直す。
■チーム会議にてチームメンバーに元の資料と新しい資料を見比べてもらい、どちらが読みやすいか率直に意見してもらう。

これで期限ははっきりしましたし、上達の成果を測定する仕組みができました。
Aさんは強い意志を持って課題に取り組んでくれることでしょう。
あとはメンターであるAさんが「がんばれ」と激励の言葉を贈るだけです。

4. まとめ


メンターがメンティーにフィードバックを与える時は、以下のことを頭に入れておきましょう:

  1. 組織の価値観を判断軸にする
  2. 結果ではなく、挑戦する努力に対して評価する
  3. 個人を評価・批判するのではなく、言動を評価・批判する
  4. メンティーの課題解決の動機付けをする
  5. メンティーに課題を自ら言語化させる
  6. メンティーにアクションプランを立てさせ、自ら宣言させる
  7. 達成期限と達成度を測定する仕組みを設ける

また、以上のことは、良質なフィードバックを与える方式の「枠組み」になります。
具体的な中身はメンターであるあなたが、自身とメンティーの置かれている状況を踏まえて、自ら形作っていきましょう。 

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