3. ダイバーシティマネジメント3つのステージ
では多様性を受容し、強みとして活かすにはどうすればいいのでしょう?
それは、組織の文化に多様性を組み込み、社員がいつのまにか多様性を当然のことのように捉えるように仕向ければいいのです。
ダイバーシティマネジメントは大きく分けて次の3つのステージから成ります:
①多様性の宣言ステージ
②多様性の受容ステージ
③多様性の活用ステージ
それではひとつひとつのステージを見ていきましょう。
3-1. 「多様性の宣言」ステージ
組織に多様性を受け入れ、多様性を活かす性質を付与するには、次の2つのことが有効です。
■ 組織のトップが多様性向上を目標として掲げ、宣言する
■ 「多様性向上」を評価制度に組み込む
トップが多様性向上を打ち出す
企業文化はトップが「今日から変える」と言ったからと言って、次の日から変わるものではありません。しかし長い道のりであるがために、トップが最初にゴールを指し示さなければならないのです。
そこで企業のトップに「これからの競争で勝者になるためには従来のやり方だけでは不十分です。よって、戦略の多様性を高めることを目標に、5年かけて社内の多様性を高めていきます。」などと、全社員に向けてビジョンを宣言してもらうことが必要です。
明確な期日と、さらに手段(男女比率を見直すのか、海外拠点の外国人社員を本社に呼び人種的な多様性を上げるのかなど)も明確に宣言するといいでしょう。
すると社員は、目標に向けて期日までに各々がなにをしなければならないのかイメージしやすくなります。
評価制度に「多様性」を組み込む
確実性を求めるなら、「多様性向上」を管理職の評価制度に組み込むといいでしょう。
トップが提唱するビジョンに社員が賛同し、いくら多様性向上に取り組んでも、それが昇給などの形で評価されないことだとしたら、次第にモチベーションは下がってしまうことでしょう。
もちろんこれは理想であり、従来の評価制度を変えるのは容易なことではありません。
多様性向上に貢献しなくても給料は下がらないが、貢献すると給料が上がる、というインセンティブのような位置付けにするなどして社内からなるべく反発がないように取り扱う必要があります。
さらに、多様性を高めた上で好成績を収めたチームを社内報で大きく取り上げるなどすると、なお効果的です。
このように社員の動機付けをし、多様性向上に自発的に取り組むよう差し向けることが重要です。
3-2. 「多様性の受容」ステージ
このステージで有効な施策は次のふたつです:
■ 部署や階級を越えた多属性ディスカッションを定期的に行う
■ 社内でチェンジエージェントを発見し、ディスカッションのファシリテーションをさせる
社内で多属性ディスカッションを行う
多様性向上をビジョンとして打ち出した後、次に行うべきことは「多様性を受け入れる訓練」です。
ダイバーシティマネジメントと聞くと、人種や男女比率のことを考えがちかもしれません。では今現在、日本人社員のみで構成されていて、男性社員が大半の企業はどう訓練すればいいのでしょう?
実は規模が大きな組織は、普段意識していないだけで、どれも高い多様性を秘めています。社内に眠る多様性を利用して組織のダイバーシティ訓練を可能にするのが、多属性ディスカッションです。
部署や階級間の溝
部署や階級が違えば、考え方は大きく異なります。これが社内に眠る多様性の正体です。
たとえば経営層や管理職は数字を通して「大局」からものごとを考える一方、末端の社員や現場の責任者は顧客や実務を通して「個」からものごとを考えます。双方しっかりした根拠があっての考えなので、双方正しいのです。
しかし、双方逆の立場から考えることは難しいため、「上はわかってない」「現場はなにをやっているんだ」といった不満が生じます。これは、部署や階級間でのダイバーシティマネジメントができていない状態といえます。
溝を越えて対話する場
そこで部署や階級を越えたディスカッショングループを形成し、これから自社がなにをすべきかを議論させます。
つまり、営業・開発・マーケティング・人事などの各部署が管理者レベルとスタッフレベルを同じ部屋で同時に話させるのです。
こうすることで、一方が見えていないことを相手は見えているということを知り、一方の立場からだけでは知り得ない情報を共有することができる「場」を用意するのです。
そこから、普段は思いつかないようなアイディアのヒントが見つかったり、ずっと悩みの種だった問題の解決策が案外近くにあったことを知ることができたりします。
このようなディスカッションを毎回違う構成員で定期的に(たとえば1カ月に一度)行うことで、違う考えを持つ人同士の関わりに組織が慣れていくのです。
良いディスカッションの題材としては、以下のようなものが考えられます:
■ この企業の理念とは
■ この企業の価値観とは
■ この企業の顧客から見た現在のイメージとは
■ この企業の強み・弱みとは
■ 自分の立場から見たこの企業の課題とは
初めは「憂鬱な多属性ディスカッション」を社員が「いつもの多属性ディスカッション」と捉えるようになる頃には、多様性の受容ステージは完了です。
チェンジエージェントを用いる
この多属性ディスカッションの効果を確実なものにする方法があります。
チェンジエージェントと呼ばれる、変化の触媒となる人材を社内で見つけ、多属性ディスカッションのファシリテーションをさせるのです。
ここで言うチェンジエージェントとは、複数の部署での勤務経験を持つ、敵や味方を基準にものごとを考えず、目標を基準にものごとを考える、合理的で意欲的な人材のことを言います。
各部署の管理者にそのような社員がいないか聞けば、必ず1人は見つかるはずです。
この人物が部署や階級の橋渡しをすることで、建設的な、質の高いディスカッションができるようになります。
3-3. 「多様性の活用」ステージ
多属性ディスカッションを定期的に開催し続けていると、普段触れ合うことのない社員同士が意気投合したり、どの部署にどのようなスキルを持った人材がいるのかを把握できたりします。
部署や階級を越えた「横のつながり」が形成され、縦割り的な組織の中の壁がもろくなります。
例として次のような恩恵が生まれます:
■ 今まではずっと下請けに頼んでいた仕事が実は別部署の人材の方がもっとうまくできるということがわかる
■ 文書では伝えきれない現場の「肌感覚」的な情報を管理職レベルと共有できるルートが生まれる
■ 部署や階級に縛られることなく意欲がある社員を集めてチームを作り、難易度の高いプロジェクトに挑める
■ 部署や階級を越えたコミュニケーションに抵抗がなくなる
これらの恩恵を実感する頃には、多様性の活用ステージはすでに始まっています。
多様性を受容し活用する新しい企業文化を基に、新たな事業に挑戦、またはさらなる事業拡大を目指すのです。