1. 身近にある異文化


冒頭の質問にあるように、親と子どもは大変な異文化です。
親という大人社会の住人からすれば、子どもの言動が理解できないことなんて日常茶飯事ですし、逆も然りです。
でも一緒に公園やテーマパークなどに行って一緒に楽しい時間を過ごすことだって可能です。

お互いの理解すら難しい間柄の人々が「楽しむ」というひとつの目標を達成することは異文化コミュニケーションの成功例でもあります。
年齢の違いは異文化のひとつの形です。

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2. 異文化コミュニケーションを成功させるには


もちろん他国の人や組織とコミュニケーションをとる時は年齢以外の様々な違いも絡むので、より複雑な異文化に直面します。
でもそれは「違い」の種類が多いか少ないか、大きいか小さいかの差であって、本質的には世代間の違いと同じことです。
引き続き年齢の違いを例に異文化の乗り越え方を考えていきましょう。

たとえば子供と一緒に楽しい時間を過ごすには、まず子供にとってどのようなことが楽しいのかを理解するために歩み寄らないといけませんよね。
テーマパークで一緒に子供向けの乗り物に乗ったり、子供向けの映画を見に映画館に一緒に行ったりすることが歩み寄ることに当たります。

異文化コミュニケーションはこれで完了ではありません。
なぜなら、このままではただ子ども社会の郷に従っただけだからです。
相手も、つまり子どももある程度大人社会の郷に従わなければ、「一緒に楽しい時間を過ごした」とは言えません。

子どもが楽しそうにしている姿を見るのが嬉しくて、子ども向けの映画に子どもを連れて行っているとしましょう。
いくら子どもの頼みとは言え、もし同じ映画を続けざまに何回も見たいと言われたらさすがに嫌ですよね?
お金にも限度があります。子どもはわがままを言い続けると二度と映画に連れて行ってもらえなくなる、などということを次第に学んでいきます。
「ものごとには限度がある」ということを徐々に学ぶことで、大人社会に歩み寄ります。

このように文化の違う者どうしが互いに相手を知り、相手にこちらの気持ちや考え方を理解してもらうことで、お互いが歩み寄ると異文化コミュニケーションが成立します。
子供相手に限らず、他者に自分の気持ちや考え方を理解してもらい、自分が相手の考え方や気持ちを理解するためにすることは、以下のふたつです。

  • 自己理解
  • 自己理解をした上での相手との対話

3. 自己理解と対話


相手に自分の気持ちや考え方を伝えるには、まず自分がそれを理解していないといけませんよね?
当たり前のことに聞こえるかもしれませんが、自分の気持ちや考え方を正確に言い表せますか?
異文化コミュニケーションを成功させるための土台は、自己理解と、自己理解をした上での対話です。

自己理解力と自己表現力が試せるシチュエーション

自己理解と自己表現が実は簡単なことではないことをお見せします。
以下のシチュエーションが自分の身に起こったことを想像してみてください。

全国に支店を構える銀行で、支店Aに新卒入社から3年間勤めていました。
サービス残業もたくさんして、同僚ともお客さんとも良好な関係を築いてきました。

しかしある日突然、「来月頭から隣町の支店Bに異動してもらいます」と上司に告げられました。
理由を聞いたら、「上からのお達しだからね。だいたいみんなそんなもんだよ」とだけ返ってきました。

では、今の気持ちをきちんと文章で表してみてください。


できましたか?漠然と感情の変化を感じることはできたかもしれませんが、それを言葉で相手に伝えるとなると、なかなか上手くまとまらないのではないでしょうか。

正確に伝える例と、その効果

以下は私の場合の気持ちになりますが、考えながら書いて10分ほどかかりました。

"ちゃんとした理由の説明もなしにそんなことを言われても、納得できません。
この職場である程度必要とされていると思っていました。
同僚といい関係を保ってきましたし、お客さんからの信頼関係も積み上げてきたと思います。
それをなんの理由もなしにいきなり手放せと言われても、やりきれないです。

せめて私が異動することで会社にどのようなメリットがあるのか教えていただかないと、この先、また3年すればどうせ異動だろうと思ってモチベーションが保てないと思います。
うちの会社は非常にやりがいのある仕事をさせてくれますが、説明が足りないところは好きになれません。"

よく考えるまで自分がどう思っているのかがはっきりとわからず、そのため自分の気持ちを表現するのに苦労してしまいました。
上記のように思ったことを正確に表現できれば、相手は何が問題であったかを理解でき、問題解決への糸口が見いだせます。
上司も異文化間できちんとコミュニケーションをとろうとしている場合は、以下のような説明をしてあげるべきだと気づけます。

"異動があるのは、君に様々な支店の様々なお客様に会って、経験値を積んでもらいたいからだ。
私だってここでこんなに上手くやっている君を手放したくはないが、会社全体のことを考えると、君のような人材を一カ所に留めておくのはもったいない。

君の働きぶりならまたすぐに新しい人間関係が築けるだろう。異動したからといって今ある人間関係がなくなるわけではないし、異動すれば人間関係は広がるだろう。
会社はそう思って、3年おきくらいに異動を命じているんだと思うよ。
説明が足りないのは私から謝る。私も言葉が足りなかった。"

もし異動命令を受けて上司に対して涙を呑んでただ「わかりました」とだけ伝えていては、自分のモチベーションが下がる上に上司や会社にとっても何も学びがありません。
つまりwin-winからは程遠い、lose-loseの結果になります。

組織内の立場が違う者どうしも異文化です。
お互いを理解するには、一方が考えを正確に理解し共有して、それに対して相手も考えを共有することが大事です

4. ビジネスでの異文化コミュニケーション


ここまでの話をまとめると、異文化コミュニケーションを成功させるには以下のステップを踏まなければなりません。

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今度は場面をビジネスに置き換えて、自分の考えを理解し、異文化の相手に伝えることが一筋縄ではいかないことを解説します。

5. 期限を守らない外国の業者との異文化コミュニケーション


日本の電車は3分でも遅れるようなら、車内放送で遅延の謝罪がされますよね。
これほどまで時間を厳守する文化は世界の中では希少です。
日本を訪れる外国人からはこのストイックさについて尊敬されます。
なぜなら、自分の国ではあり得ないからです。

この文化の違いは、外国とビジネスをする際のトラブルの要因になりやすいですよね。
特に、日本のクライアントへ商品を納品する期限があり、それまでの過程で外国の業者や支社からの納品物がある場合、困ったことになりがちです。
これまでにお伝えしてきた異文化コミュニケーションの仕方をこのようなビジネスの場面に取り入れてみましょう。

シチュエーション

あなたが大きなIT企業に勤め、システム開発の一部をベトナムのグループ会社に外注しているとします。
低料金で、なおかつ出来上がってくるものの質は申し分ないものの、以前外注した際に2週間も遅れて納品してきました。
このことから、今回は2週間遅れるだろうということを見越して、このベトナムの外注先には早めの納品期限を伝えてあります。

5-1. ステップ1:日本人がなぜ期限を守るかを理解する


ベトナムのグループ会社との最初のミーティングをすることになりました。
向こうから挙げられている議題の中に「期限の相談」が盛り込まれています。
異文化コミュニケーションを行うことになるので、ミーティングに入る前に、まずは自分の考えをはっきりと理解する必要があります。

今回は期限をなんとしても守ってもらわなければなりません。
ではなぜ日本では期限は絶対なのでしょう?
自分が納得のいく答えを考えてみてください。

答えは見つかりましたか?

私はこう考えます。

"おそらく、日本の文化は和を重んじるので、期限を守るのは和を乱したくないからではないでしょうか。
というより、自分が和を乱す張本人になり他人に迷惑をかけるということをしたくないからではないでしょうか。

自分の担当範囲の仕事が遅れることで、プロジェクト全体の遅延につながります。
日本人としてはこのような事態はなんとしても避けたいのではないでしょうか。
そのため、たとえ厳しい期限でも、なんとか間に合わせようと遅くまで残業したり、健康や家庭を顧みず休日出勤をしたりします。
どうしても間に合わない場合は質を削ってでも期限に間に合わせようとします。

これらのことから、期限厳守がなによりも優先順位が高いことが伺えます。
きっと、期限を守るということは約束を守るということで、日本において信頼を保つにはとても重要なことなのではないでしょうか。"

自分の言葉で説明できるのなら、ミーティングに入る準備ができています。

5-2. ステップ2:相手に日本の考え方を説明する


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プロジェクトの初回ミーティングが始まり、「期限の相談」の議題に入りました。ここでの目標は以下の通りです。

日本の期限の考え方を説明し、相手の考え方も話してもらい、まずはギャップを明確にします。

ここからは会話形式でお互いの異文化コミュニケーションの仕方を見て行きましょう。最初は険悪な言い争いから始まります。

Vietnam: 期限についてですが、これはちょっと早すぎませんか。このままでは期日までに納品するお約束はできません。

Japan: とは言っても前回のように余裕を持って期日を設定した上で結局約束を破られては困るんですよ。

Vietnam: あれはしかたなかったのです。期限を延ばしていただかなかったら、ご要望の質では納品できませんでした。弊社のスタッフの体調が優れない時期があったので、致しかたなく期限の延長をお願いさせていただきました。実際に納品後のバグは少なく済んだではないですか。

Japan: ええ、それは助かりました。なにせバグのチェック期間がおかげさまで2週間も削られましたからね。

Vietnam: 結果的に丸く収まってよかったではないですか。期限が伸びなければ私どものスタッフのモチベーションは下がって、会社の雰囲気が悪くなるところでした。

Japan: 会社の雰囲気のためにクライアントへの納品が2週間も遅れたのですか!?

Vietnam: そうですよ。ベトナムではとても大切なことなんです。

Japan: 日本ではそれは言い訳にはなりませんよ。日本とビジネスをするならそこは改めた方が良いかと思います。

Vietnam: 私どももそれは前回のことから学びました。日本の企業と仕事をするのは初めてでしたので、ご容赦ください。

Japan: いえ、こちらこそ、弊社がまた御社と仕事をすることに決めたのは、やはり質がよかったからですから。・・・どうでしょう、今回はプロジェクトを始める前にお互いのことをもっとよく理解するというのは。前回はお互いのやり方がかみ合わずストレスを感じる時期があったものの、最終的に私どものクライアントには喜んでもらえました。きっと、弊社と御社の間でもっと上手いやり方があるのではと思っています。

Vietnam: 弊社としましても、このようなチャンスを与えていただいているので、私どものクライアントである御社にもっと喜んでいただきたいです。

Japan: ありがとうございます。どうやらお互いがかみ合っていないのは期限についてだけのようなので、この点について少し話しませんか?

Vietnam: わかりました。


ここから「期限」という概念について、お互いの理解を確認し、ギャップの正体を突き止めます。

Japan: 日本では全体の和がなによりも大事にされています。周りに迷惑をかけたくない、という思いが強いので、問題なく事が進むことを重視します。たとえば弊社がクライアントへのシステムの納品を期日までにできないと、クライアントに迷惑がかかります。クライアントはクライアントの社内外の人にシステム使用開始時期を約束しているはずです。弊社が期限を破るということは、クライアントにクライアントの利害関係者との約束を破らせることになります。このような事態はなんとしても避けなければなりません。このため、弊社へのシステムの一部の納品が遅れるのは非常に心臓に悪いのです。

Vietnam: なるほど。そういうことだったのですね。だとすると、僭越ながら申し上げますと、弊社の期限を延ばすべきだという判断は間違いではなかったかと思います。ベトナムでは現場の雰囲気が大事と先ほど申しましたが、理由のひとつは、ベトナムでは従業員の離職率が高いことです。ベトナムの若者は特に、1年から2年ほど経験を積んだらすぐに次の企業へ転職していきます。しかもベトナムは現在急速に発展しているので、人材に関しては完全に売り手市場です。今いる会社の雰囲気が良くなかったら、若者の立場からすれば居残るよりも別の職場を探した方が有意義だと思います。弊社としては社員に退職されたら困りますし、プロジェクトの途中で退職されたら御社にもマイナスです。幸い前回は期限を延長していただいたおかげで、退職者は出ませんでしたし、2週間の延長で済みました。

Japan: そういうことだったのですね。言ってくれればよかったのに、と言いたいところですが、やはりこのようにちゃんと話し合う機会がなかったのがいけませんでしたね。我々もこちらが期待することを明確にせずに失礼しました。日本においてdeadlineが「7月31日まで」ということは7月31日までに必ず納品、という意味です。これは交渉の余地がありません。

Vietnam: ベトナムではdeadlineはどちらかというと努力目標のようなものです。チームや家族など、自分の身の周りの人と良好な関係と雰囲気を保つことを大事に思っています。ですから期限を延ばすなどしてチームに無理をさせないようにします。日本ではお客様の方がより大事だと考えているのでしょうか?

Japan: そうですね。外側の人間に喜んでもらうためなら、内側の人間が多少の無理をするのは仕方ない、と考えているのかもしれません。


期限に対しての考え方の違いの他に、内部と外部の人間の優先順位の違いが見えてきました。

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5-3. ステップ3:共通の目標を定める


お互いの考え方のギャップがはっきりしたので、ここからは以下の二点が目標になります。

  • 「期限」の定義についてもきっちり話す。
  • 二つの文化を上手く融合させてお互いに納得のいく期限を決めます。

これからも良好な関係を保ちたい相手ならば、どちらかの文化を押し付けるやり方ではなく、お互いの文化を上手く融合させる必要があります。
ベトナム側に質を高く保ちつつ期限を絶対に守ってもらうために、日本側がする譲歩に注目してみましょう。

Japan: ベトナムのdeadlineの意味はわかりました。弊社としましても御社の社員が気持ちよくプロジェクトに携わっていただくことに越したことはありません。とはいえ、最終的に我々が作るシステムを受け取るクライアントは日本の企業です。期限は絶対に守らなければなりません。

Vietnam: 承知しました。社員にもそのように伝えておきます。

Japan: 前回と同様、今回も厳しめの期限ではありますので、ひとつ提案がありまず。期限は延ばせませない代わりに、人員を増やすための予算を少し余分に取るので、派遣社員などを雇う必要があると判断した場合は仰ってください。

Vietnam: それは大変心強いです。必要な時はお言葉に甘えさせていただきます。

Japan: それでは、期限はちょうど三か月後で、延期は一切なし、ということでよろしいでしょうか?

Vietnam: わかりました。


お互いの考え方とそのギャップがわかっていれば、問題の解決方法が明確に見えるので、意外なほどあっけなく話がまとまります。大変なのは最初の意識合わせだけです。

6. まとめ


いかがでしたか?

取引先がたとえ理解し難い言動をする異国の文化の人間だったとしても、ふたを開けてみれば結局自分と同じ人間だということがわかったのではないでしょうか。

同時に、「外国語を話せること」と「異文化コミュニケーションができること」は異なる能力、ということがわかったのではないでしょうか。

しかし今回例として出した会話例は、共通言語が話せなければそもそも成立しません。
語学力と異文化コミュニケーション力は別物ではありますが、切っても切れない間柄です。

最後に異文化コミュニケーションの重要なポイントをまとめます。

  1. 異文化は国と国の間の違いだけではなく、あらゆる違いを指す。
  2. 相手の文化を理解する前に、自分の考え方や文化を理解することが大事。
  3. 自分の文化を理解した上で相手と対話しなければならない。
  4. 対話を通してお互いの文化間のギャップを明確にすると、それ以降、話がまとまりやすくなる。

ギャップの大きい異文化でも、きちんと対話をする場が設けられれば乗り越えられます。
これは外部の人間に対してだけではなく、部下や上司という異文化にも言えることなので、次回「苦手な人」と仕事をする時はこの記事を思い出してみてください。

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