1 リベラルアーツとは


リベラルアーツとは:人間の思考の軸が根差す根本を養う教養です。
それぞれの単語がなにを意味するのかを、文に図を合わせて視覚的にお見せします。

では次の章で理解を深めていきましょう。

2 リベラルアーツを理解するための3つの軸


リベラルアーツがなぜ重要かを理解するためには、「思考の軸」が何であるかを理解する必要があります。

思考の軸とは:決断と、その根拠を結ぶものです。

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なにかを決断する際には、やるか否かを決めるための根拠が必要です。
根拠という土台があってはじめて軸を持つことができるのです。

決断力がある人間は軸がしっかりしているとされます。実際にそうなのでしょう。
しかし一本しかなく、微動だにしない軸を持っているとしたら、それはただの頑固者ではないか、とも考えられます。
実は、根拠という土台がしっかりある限り、軸はいくつも持つことができるのです。

× 軸をいくつも持つこと=軸がぶれている
○ 決断の根拠がない=軸がぶれている

根拠とするものがないと人の意見に流されやすく、なにが正しいのか、なにをやるべきかを自身で決断できないのです。
「ぶれない人」はいくつもの軸から人の意見を聞き、それぞれの軸の観点から人の意見を精査できる能力があるのです。

そのいくつもの軸を大きく3種類にわけました。
例とともにそれぞれがどのような軸なのかを見ていきましょう。


2.1 専門知識を根拠に軸を持つ

たとえば飛行機のエンジニアが翼を設計する時に、「このデザインなら問題なく飛ぶ」と考える根拠はなんでしょう?

それはきっと、過去の膨大な実験データや前例と自分の設計図を照らし合わせて、「これならベルヌーイの定理により揚力が生まれ、飛ぶ」と判断するのでしょう。
「なんとなく飛びそうな見た目」などを根拠とするのではなく、専門知識を根拠として決断を下す人は、しっかりした思考の軸があると言えます。

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2.2 専門外の知識を根拠に軸を持つ

では翼をデザインするエンジニアの上司にあたる、チーフエンジニアは何を根拠にこの翼のデザインに認可を出すのでしょう?

チーフをエンジニアあがりだとすると、「ベルヌーイの定理により揚力が生まれるから飛ぶ」という説明を理解し、機能面で問題はないと判断できます。
しかし部品確保やコストの観点から問題ないと判断するには、エンジニアリングの知識のみならず、流通や会計の知識も必要になります。

より大きな決断を下すためには、専門分野と共に専門外の知識も動員し、しっかりとした根拠を基に軸を持たなければなりません。

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2.3 教養を根拠に軸を持つ

これまで何度か名前が出ている「ベルヌーイの定理」を根拠に、エンジニアとチーフエンジニアは決断を下しています。
ではそもそものこの定理を生んだベルヌーイとは何者なのでしょうか?
彼の正体を探ることで、リベラルアーツの意味を深く理解することができます。


多様な知識と関心を持つベルヌーイ

ダニエル・ベルヌーイは1700年代に生きたスイスの学者で、物理や数学の分野で同じ学者だった実の父親にねたまれるほどの目覚ましい功績を残しました。
彼は他に医学を学び、植物学を大学で教え、自然科学や経済学の研究をするという多分野での活躍を見せました。

現代の流体力学の基礎となっているベルヌーイの定理のような「人間の思考の軸が根差す根本」を形成するには、ベルヌーイその人のように、幅広い知識や関心を総動員させて、自ら論理的に深く考え、根拠を頭の中で自ら発見しなければならないのです。

様々な分野の教養がある人ほど、それだけ色々な根拠を基に思考の軸を持ち、他者がとてもできない判断や決断をすることができる、ということになります。


リベラルアーツを通してつながりを読み取る力を養う

よって、文学、歴史、哲学、音楽、科学などの分野での教育を意味するリベラルアーツとは、人間の思考の軸が根差す根本を養う教養なのです。
たとえばモーツァルトはクラシック音楽に分類されるがベートーベンはロマン派とする方が正しい、という極めて抽象的なことを論理立てて証明する訓練をすると、ビジネスで起こる様々な事象のつながりや原因を読み取る能力が養われるのです。

イメージとしては、今取りかかっている問題から、一見全く関係のない極めて遠いところより根拠を引っ張ってくる力をつけるための教育です。

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3 リベラルアーツは普遍的な論理的思考を養う

リベラルアーツは思考の軸が根差す根本を養う他に、普遍的な論理的思考を養います。
ここでいう普遍的な論理的思考が何を意味するか、問題を通してお見せしましょう。

以下のA~D内に2文ずつ情報があります。
情報が組み合わさると何か意味を成さないか、推測してみましょう。


3.1 問題

A. 山田君は200円を持って買い物に出かけました。りんごと80円を持って帰ってきました。

B. 海水温度が上昇するとサンゴが死ぬ。ヒトデはサンゴを餌にする。

C. 原子や粒子は確率的挙動をする。我々の脳は原子や粒子からできている。

D. 音楽とは音を用いた芸術である。芸術とは表現者や鑑賞者が精神的・感覚的な変動を得られるものである。


3.2 解答例

A-a. おそらく山田君は120円のりんごを買ってきたのだろう。

B-a. もしかしたら海水温度の上昇がサンゴの死の直接的な原因ではなく、温度上昇によって温かい海に住んでいたヒトデが移動し、サンゴを食べてしまうのではないだろうか。

C-a. 我々の脳がすべて確率的挙動をする物質で形成されているとしたら、「自由な意志」というものははたして存在するのだろうか?

D-a. さっきカフェでポップスがBGMとして流れていた気がするけど、まったく気にも留めなかった。ということは、あれははたして音楽と呼べるのだろうか?


上記のように、情報の分野に関わらず、なんらかの意味を見出せる思考力のことを、普遍的な論理的思考とします。
これは現代のビジネスパーソンにとって極めて重要です。


3.3 自ら課題を創造する論理的思考

現代のビジネスパーソン、特に組織のリーダーは課題を自ら作らなければなりません。

日本の話をすると、戦後は先進国に経済的に追いつくために国内市場の拡大やインフラ整備など、しなければいけないことが予め決まっていました。
向き合う課題と目標となる数値が明確にありました。習うべき手本が外国に存在しました。
しかし先進国となって以降は、この先の未来の手本がないのです。自ら課題を見つけ、目標を設定しなければならないのです。

課題を見つけるといっても、それはどこに落ちているのでしょうか?
目標となる数値は誰が決めてくれるのでしょうか?

答えは:課題はどこにも落ちていないし、目標数値を決めてくれる人は誰もいません。


リベラルアーツを通して課題創造力を鍛える

課題を創造し、目標数値を設定するのは、他ならぬリーダーの脳です。
これらすべては脳内で起こる出来事なのです。

しかし、課題や目標のヒントを見つけるにあたって、個人の経験知だけでは限界があります。
様々な学問や文献に触れ、分野が何であれ、意味を見出す普遍的な論理的思考がリーダーには必要です。

この普遍的な論理的思考を養うのに、リベラルアーツは最適な教材なのです。

4 リベラルアーツがもたらす3つの恩恵

リベラルアーツとは様々な根拠を基に思考の軸を持つ力と、論理的思考力を養う教養だという話をしました。
リベラルアーツはさらなる恩恵として、信頼関係構築や新しい価値の創造などの一助となります。

最後に、なぜこのようなことが言えるのかを説明します。


4.1 信頼を勝ち取る

ここからはもう少し身近な話題をベースに話をします。

ここまで話したリベラルアーツは、ゴルフコースに似ています。
また、論理的思考はゴルフのスウィングに似ています。


ゴルフのプレイスタイルは十人十色

取引先や同僚とゴルフに出かけることはありますか?
そこで、「同じスポーツなのにプレイスタイルは十人十色だな」と思ったことはありませんか?

どのようなスポーツであれ、他の人のプレイを見て学ぶことや感心することがあるはずです。

AさんはAさんのプレイスタイルで最終ホールに辿りつきます。
BさんはBさんのプレイスタイルで最終ホールを迎えます。

つまり、プレイスタイルに正解はないのです。
最終ホールに辿りつけるだけの力量があれば、どのプレイスタイルも正しいのです。
AさんはBさんの豪快なスウィングを見て感心し、BさんはAさんの繊細なパットを見て学習します。


リベラルアーツは思考の軸を披露する場

リベラルアーツは論理的思考の軸を鍛える題材であると共に、自分の思考の軸を披露する恰好の題材でもあるのです。

たとえば外国人との会食の席などで、
「あなたは日本人として、原発をどう思いますか?」
「あなたは日本人として、クジラ漁についてどう思いますか?」
と、リベラルアーツでいう社会学や物理学、自然科学に関連することを聞かれたとしましょう。

普段から意識して考えることではないにせよ、その場で論理的に、他者が「なるほど」と思う考えが示すことができますか?


しっかりとした思考の軸を披露できれば信頼を勝ち取れる

ここで「あまり考えたことはありませんね。」とだけ答えてしまうと、その場でその話題は終了し、同時にその外国人に興味を持ってもらうチャンスを失います。
ビジネスの外での信頼関係を築くきっかけを、みすみす逃すことになるのです。

この外国人は自分と同じ意見を持つ気の合う人物を探しているのではなく、あなたという人間がどのような思考の軸を持っているのか興味があって質問しているのです。

正しい答えなどないのですから、自分の思考の軸を披露すればいいのです。


ゴルフで練習の成果を見せるように、思考の軸を披露する

ゴルフに置き換えてみましょう。

ゴルフでいう「あなたは日本人として、原発をどう思いますか?」という質問は、バンカーからのショットのようなものです。
「あなたは日本人として、クジラ漁をどう思いますか?」は30メートルのロングパットのようなものです。
これらの難しいショットをみごと決めることができれば、相手は思わず「なるほど」と感嘆の声を漏らすことでしょう。

日頃のゴルフスウィングの練習が窮地を乗り越えさせてくれるように、日頃の論理的思考の鍛錬がものをいうのです。
リベラルアーツはゴルフコースのように、鍛錬の成果を鍛えるだけでなく、披露する場でもあるのです。


4.2 器を押し広げる

リベラルアーツをゴルフコース、論理的思考をスウィングとしました。
では十人十色のゴルフのプレイスタイルはなんなのでしょう?

プレイスタイルが象徴するもの、それは、人間の器です。

先に述べたように、プレイスタイルに正解はありません。
しかし、トッププロのそれのように、多くの人が「すごいな」と口をそろえて言うプレイスタイルは存在します。
トッププロのプレイスタイルは大勢が真似ようとします。
コースのどのような難所からもホールに寄せるトッププロのスウィング、つまりあらゆるものにつながりを見出すことができる論理的思考に多くの人が尊敬の念を抱きます。

教養をつけるということは、多くのゴルフコースを経験するのと同義です。
様々なコースを経験することによって、場所を問わず自らのプレイスタイルで成果を出す力が身につきます。
どのような場面や人にあたっても自分の思考の軸をベースにうまく立ち回れる人は、器が大きいのです。

よって教養をつけるということは、結果的に自らの器を押し広げることになるのです。


4.3 全く新しい価値を創造する

他者から見て魅力的な、器が大きい人物の例として、スティーブ・ジョブスを挙げます。
彼は大学を中退しているので、教養は社会に出てから独力でつけていったのでしょう。

彼の論理的思考と決断力がいかに優れているかを表す言葉が残っています。

I never rely on Market Research.” 「私はマーケットリサーチには絶対に頼らない」

人はすでにある価値を基にしか善し悪しを判断できないことから、全く新しい商品を世に送り出そうとする時、マーケットリサーチはなんの意味もなさないという考えです。

新しい価値を生み出そうとする時に、まだできてもいないものに対する考えを人に聞き、それを根拠にやるか否かを決断するなど、根本的におかしいという考えなのでしょう。


決断の根拠は頭の中で生まれた

ではパソコンと携帯電話を一緒にし、ソフトウェアを誰でも開発できるようにするのが市場に受け入れられると彼が考えた根拠はなんだったのでしょう?

根拠はもちろん、彼の頭の中で生まれました。
様々な人と話し、ビジネスに限らず様々なところからヒントを拾い集め、自らの頭の中でつながりを見出した時、ジョブスは「これはいける」と確信したのでしょう。


リベラルアーツは新しい価値の創造を手助けする

根拠を探すのではなく根拠を見出す力がなければ、新しい価値は生み出せません。
このことから、以下のことが言えます。

  1. リベラルアーツは論理的思考を養う
  2. 論理的思考はつながりを読み取る力になる
  3. つながりが見えると、根拠を見出すことができる
  4. 根拠を見出すことができれば全く新しい価値を創造できる
  5. よって、リベラルアーツは論理的思考と併せることで、全く新しい価値を生み出す力になる


* * *

リベラルアーツが、現代のビジネスシーンにおいていかに重要か、お分かり頂けましたか?
ビジネスでの成功を目標にするなら、専門的知識と併せて、教養的な知識を強化してみてはいかがでしょうか。

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