1. VUCAとは?


一つひとつの要因を、ビジネスにおいての具体例を通して理解を深めていきましょう。


1-1. Volatility -変動性

現代ビジネスシーンはいともたやすく激変します。
ITの驚異的な進化速度の助けもあり、新しい事業や業界が生まれては消えるまでのスピードは速まっています。
このハイペースで変動する環境に対応しなければなりません。


輸入業が直面する変動性

たとえば、新しい規格の最新高性能コンピューターチップを輸入し、高単価で販売していた企業があったとします。
しかし2年ほどするとまた新しい規格の、さらに高性能なチップが輸入元とは別の会社で開発されました。
取り扱っている製品の価値が下がり、現在のビジネスモデルが赤字化していきます。
すると、お世話になっていた輸入元との取引を断念し、新たな輸入ルートを開拓する必要に迫られます。

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このような急速で大きな変化を表す言葉が変動性(Volatility)です。


1-2. Uncertainty – 不確実性

ある日突然新たな競合が生まれたり、海外から競合が参入してきたり、どこからかサイバー攻撃を受けたり、大規模自然災害が襲ってきたりするかもしれません。
どれも業務を著しく妨害し、業務の見直しを余儀なくします。
その都度仕事のやり方をある程度変えていかなければなりません。


ドイツのビール産業が直面する不確実性

ドイツのビール産業を例に取ります。
ドイツのビール業界には、Reinheintsgebot(ラインハイツゲボット)という名の、厳しい規定のビール純粋令があります。
日本のトクホマークと似た制度で、ラインハイツゲボット認定されている商品は規定を満たしている本物のビールだと正式に証明されます。

しかしその厳しい規定が逆に災いし、ドイツ国内のメーカーが革新的な味の新しいビールというものが作れない状況にあります。

そこへ、アメリカからストーン・ブリューイング社というビールメーカーがある日突然、ドイツにビール工場を建設し始めるのです。
アメリカでおいしいクラフトビールの製造販売で成功した実績のある会社が、ドイツでクラフトビールという真新しい味を提供し出したとしたらどうでしょう?
厳密に言うと本物のビールではないにせよ、アメリカのクラフトビールが、国産の似通った味のビールに飽き飽きしているドイツ人に受け入れられたとしたらどうでしょう?
ドイツのビールメーカーは今までの価値観を見直す必要に迫られます。

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このように、未来の出来事や脅威が予測しにくいことを表す言葉が不確実性(Uncertainty)です。


1-3. Complexity – 複雑性

多部署、多企業、多地域が絡み合うことで仕事は自然と複雑になります。
各国の法律、習慣、文化、ビジネス環境、政治的安定度など、調べればある程度把握できても業務と因果関係がある事柄はあまりにも多く、交錯します。


人事部が直面する不確実性

たとえばある企業のトップがGE社やP&G社のように、自社が雇用者として有能な人材に魅力的に映るように(employer branding)評価制度の見直しに着手したいとします。
しかし他社の真似ごとではなく、自社の状況と目標に沿った、正当性ある評価制度を作るのは容易なことではありません。
施行する前に次のことを行う必要があります。

■ なぜこのような評価方法に切り替えるのかを社員がわかるようにきちんと説明しなければなりません。
■ グローバル企業なら平均所得や生活環境が全く違う他の地域でも賃金の公平性を保つべきかどうかを考えなければなりません。
■ 公平性を保たないのであれば、それがなぜかを納得のいく形で説明しなければなりません。
■ 労働組合が新しい評価制度に賛同してくれないかもしれません。

ひとつ先へ進むために、多方面への対応策を考えなければならないのです。

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このように、壁となるものがいくつもあることを表す言葉が複雑性(Complexity)です。


1-4. Ambiguity – 曖昧性

自社で、ひいては全世界で前例のない全く新たな事業の実現は困難です。
何から何まで手探りで進めるしかなく、失敗の度合いや回数も実際に失敗するまでわからないのです。
物事の因果関係が曖昧なため、実現までどのくらいの期間を要するのかも正確な予測はできません。


人口的合成生命事業が直面する曖昧性

たとえば、分子生物学者であり自身の研究機関の会長でもある実業家のクレイグ・ヴェンターという人物がいます。
彼が率いる組織は、微生物型の合成生命を人工的に作り、排ガスのきれいな燃料生成や医療などの特殊な機能を持たせる取り組みを行っています。
特筆すべきは、彼の研究機関が営利目的のものであるということです。
このようなビジネスを成立させるにあたって、様々な懸念があるはずです。

■ 同主旨の研究は分子生物学の分野ではいくつもあるものの、営利目的の研究に関しては前例もなければ学ぶべき同業者すらいません。これからなにをどうすれば良いのか曖昧なまま研究と事業を進めなければなりません。
■ 倫理の観点から、生物を人工的に作ることへの批判は現段階でも強いです。これから先、世間の支持を十分に得られるかも曖昧です。
■ 新たな生命を作るということは、生態系への影響は必ずあります。その影響がどれほどのものであるかは計り知れません。

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このように漠然とした因果関係までしかわからないことを表す言葉が曖昧性(Ambiguity)です。

2. VUCAに打ち勝つ人材の3つの資質


VUCAの正体がわかったところで、ではどのような人材が、先が見えない中で闘っていける存在なのかを定義していきましょう。
また利便性のために、この記事では定義に当てはまる人材を「対VUCA人材」とします。

対VUCA人材は冒頭でお伝えしたように、Accepts、Thinks、Takes actionの3つの資質があります。簡単に説明すると、

■ 予測不能な事態を受け入れ
■ その都度考え
■ 適切に行動する

ということになります。
しかしこれでは「場当たり的な人」となにが違うのか?という疑問が生まれかねません。

まずは対VUCA人材と場当たり的な人の違いを明確にします。
その後、対VUCA人材の資質が具体的にどのようなものかを見ていきましょう。


2-1. 対VUCA人材と場当たり的な人の違い

結論から言うと、違いは以下になります。


場当たり的な人
■ 状況が変わった時に対処法を考え始め、行動を起こす


対VUCA人材
■ 状況が変わった時にすぐに行動を起こせるように、常に布石となる手を打ち続けている


たとえば後継者問題を例に取りましょう。
Aさんが今日、転勤が決まったとします。ずっと夢見ていた、転勤希望を出していた海外支社への赴任です。


Aさんが場当たり的な人だった場合は、この後の展開は以下のようになります:

  1. 現職場での業務内容を今まで誰とも共有していなかったため、引き継ぎをするにもどこから始めれば良いのかも、誰に引き継げば良いのかもわかりません。
  2. 業務内容や取引先との関係、技術的な知識など、引き継ぐ情報や仕事の膨大さに気付きます。
  3. あまりに膨大なので現時点では人手が足りないため、新たに採用募集をかけることになります。
  4. 引き継ぎをできるのは自分一人しかいないため、人が見つかるまで待つことになります。
  5. 人がなかなか見つからないまま3カ月が過ぎてしまい、赴任先の海外支社はこれ以上待てず、Aさんと同様に転勤希望を出していたBさんを寄こしてくれ、と言われてしまいます。


Bさんが対VUCA人材だった場合は、この後の展開は以下のようになります:

  1. 転勤希望先に空きができるその日のために、転勤希望を出した2年前から後継を育て始めていました。後輩を取引先に何度も連れて行き良好な関係を構築させ、定期的に勉強会を設け知識を共有してきました。
  2. 海外赴任が決まったという知らせを受け、後輩に円滑に業務を引き継ぐために必要な情報を書類にまとめ始めます。
  3. 取引先に挨拶しに回り、転勤する旨を伝えます。
  4. 赴任が決まってから2週間後には住居を探しに行くために一時赴任先へ渡航、1ヶ月後には日本を出ます。

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簡単に言ってしまえば、対VUCA人材は課題を自ら考え、言われる前にやる人のことを言います。


対VUCA人材と場当たり的な人が同義ではないことがわかったところで、対VUCA人材の資質を詳細に見ていきましょう。


2-2. 資質その1:Accepts – 予測不能な事態や障害は当然起こり得るものと考えている

第一に、対VUCA人材は自身が把握できる情報には限りがあることを認めているという意味で謙虚です。

たとえば対VUCA人材は以下のようなことを普段から考えているので、予測不能な事態に陥ったとしても動じません:

■ マーケットリサーチとしてアンケートを実施したとしても、それはアンケートに答えてくれるタイプの人から得られる情報であって、市場全体を表す情報ではない
■ 自分がある分野での第一人者であったとしても、それは自分の耳が届く範囲内限定のことでしかない
■ 予測を立てはしても、それがまるごと覆ることもあり得る

まとめると、今把握している情報は最大限活用し未来の予測を立てるものの、せっかく立てた予測が覆るような新たな情報の流入を拒みません。


2-3. 資質その2:Thinks – 目標へのシナリオを常に考え、必要に応じて随時書き換える

対VUCA人材は、常に現状から目標への道筋を描いています。
しかしここでポイントなのは、ひとつながりの鉄のレールでシナリオを描いているのではなく、隙間だらけの飛び石で描いているということです。
なぜなら目標への道程にはVUCAが待ち受けていて、完璧にシナリオ通りにいくことなど、ありえないからです。

目標へのシナリオには穴があってもいいのです。これには2つの理由があります:

1. 人が把握できる情報、特に未来を予測するために必要な情報に関してはなおさら限られている
2. 現状の自分より、目標に今より近づいている未来の自分の方が良い判断ができる


今ある10の情報より未来に得られる1つの情報

今ある10の情報より、未来に得られる1つの情報の方がはるかに有益です。

天気予報を例に取りましょう。
現在の世界全体の気温、気圧、湿度、風の情報を総動員させても、明日の天気については専門家でも「降水確率50%」など、「もしかすると」程度の予測しかできないことがあります。

しかし、実際に翌日になって黒い雲を目にして空気中の湿気を肌に感じることで、「これは今にも降り出すな」と、専門家でなくても精度の高い予測ができます。

今の自分の予測力は、未来の自分の予測力より弱いと認め、目標へのシナリオを予測力が高まる度に随時書き換えることが重要です。
また、最終目標は変えないものの、最終目標の達成の仕方も随時書き換えます。

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2-4. 資質その3:Takes action – 未来の自分が最良の判断ができるように、現在できることを最大限する

最終目標までのおおまかなシナリオが描けたら、対VUCA人材はすぐに行動を開始します。
注目すべきは、最初の行動を起こす時点では、最終目標がどのような形で達成されるのかはまだわからないということです。

未来のシナリオが穴だらけなのに、対VUCA人材はどうして不安にならないのでしょう?
それは、自分が行動することで都度穴を埋めていくだろうという、絶対的な自信があるからです。

以下のようなactionを実行することで、穴埋めをしていきます。

■ この先必要だと思う新しいスキルを修得する
■ あるタスクに対して自分が適任者ではないと判断したら、適任者を探す
■ 予測している状況変化に対応し得る体制がすぐに実現できるように、人材の目星をつけておく
■ 巻き込む人材の動機付けをするなどして、根回しをしておく

状況変化が実際に起こるまで具体的になにをするべきかわかりません。
上記の「今できること」を常に行い、一つひとつ実現していくことで、自分に絶対的な自信をつけていきます。

では絶対的な自信とはどの程度のものなのでしょう?

仕事を誰かに任せる時、「この人に頼んだら本当にちゃんとやってくれるかな?」と思ってしまうような人もいれば、「この人なら大丈夫だ」と思える人もいます。
対VUCA人材は、自分が「この人なら大丈夫」と思える人なのです。


* * *

VUCAに打ち勝つ人材が具体的にどのような人物であるか、イメージはできましたでしょうか?
考えることと行動することを常にしていて、なおかつ未来のどんな仕事も「自分(のチーム)なら大丈夫、できる」と思えているとしたら、あなたはすでに対VUCA人材です。

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